開発と経済のはざま

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大学院で統計を学ぶ意味

大学学部では「地味そう」という理由だけで統計学のクラスを取りませんでした。今思うと完全に浅はかとしか言いようがありません。しかし実際、少なくとも当時大学の座学の統計は理論だけを学び、(最も面白いはずの)実世界への応用は重視されていませんでした。扱いが「準必修」だったことにも頷けます。それが日本でも数年前に「 統計学が最強の学問である」がベストセラー入りしたことに象徴されるように「統計ってクールだよね」という風潮が生まれたのを記憶しています。このさらに以前に世界中で話題となった「ヤバい経済学 [増補改訂版]」も計量経済学のツールで分かる面白い結果を解説した書です。相撲がなぜ茶番と言えるのか、というショッキングな分析もありました。
ではなぜ今統計の重要性が叫ばれているのか。それは紛れもなく、統計が現代世界を生きる必須スキルだからです。
 
「クラスのなかで誕生日が同じ2人組がいる確率は」「ガン検査で陽性だった時に本当にガンに罹患している確率は」これらは初見で間違いやすい問題です。最初の問いは50人のクラスで97%、2番目の問いは機械のエラー発生確率に因りますが20%以下が普通です。MPA/IDの統計の授業では、「Our intuition is mostly wrong:我々の直感はほとんどの場合誤っている」とまず教授に言われます。また、有名な「風が吹けば桶屋が儲かる」話のように「○の場合●」という話は世の中に溢れています。その中にどれだけ因果関係を示した関係があるか。複数の犯罪者が少年時代に○○というゲームをしていたことが判明した。●●ダイエットは成功する人が多い。といった話も同じです。必ずしも原因と結果の関係でなくとも、第3の要因を経由して関連付けされたりあるいは逆の因果関係だったりする可能性もあります。多くの場合、因果関係の証明は容易でありません。同じ教授が学期を通じて言うことが「correlataion is not cosation:相関関係は因果関係ではない」です。有象無象の情報の中で生きる私たちは、日々のニュースやインターネットを見る際に安易な関連付け、判断をしないよう気をつけないといけません。
 
統計の授業ではデータを扱う基礎になる原則(中心極限定理ベイズ定理等)から、どのような場合に因果関係があると言えるのかを学習し、正しい関連性を分析するためのツール習得を目指します。授業が進むにつれより実践的な問いに答えられるようになります。「選挙速報ではなぜ票回収が半分にも満たない中「当確」が出るのか」「試験薬のサンプル試験で効果が出たがこの薬は有効か」「汚職は行われているのか」これらの問いに答えるための重要なツールが回帰分析:regressionです。その様々な手法、とりわけインパクト評価について次回エントリーで説明したいと思います。