開発と経済のはざま

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ブックレビュー Good Economics for Hard Times

2019年ノーベル経済学賞を受賞した3人のうち2人、Abhijit BanerjeeとEsther Duflo(2人は夫婦)による本書。原文で読んだからか3ヶ月近くかかってしまったが、飽きずに最後まで読むことが出来た。全てのchapterにおいて経済学の用語や数式を出来る限り用いず、読者の視点に寄り添いつつ「常識」をデータでもって覆し議論を進める手法は見事の一言。

本書で扱われるトピックは、移民、貿易、格差、経済成長、気候変動、税とベーシックインカム等、今日重要視されるトピックを俯瞰している。本書を読むとそれぞれについてなぜ問題となっているのかがよく分かる。移民は職を奪うのか、ロボットは職を奪うのか、貿易は格差を拡大するのか、税を下げると経済成長は進むのか、高所得者への累進課税を進めると働くインセンティブを奪うのか、気候変動の深刻化はイノベーションを生むのか。いずれも、社会は経済合理性を前提には動いていないことが問題認識の背景にあると言えるかもしれない。だからといって経済学は役に立たないということではなく、むしろ、経済学のアプローチで理論と実証結果を示しつつ、その差への考察から示唆を得ていくのが有効なのだ。

After all , most of us want to protect an image of ourselves as intelligent , hard - working , morally upright individuals , both because it is simply not pleasant to admit we might in fact be dumb , lazy , and unscrupulous , but also because maintaining a good opinion of ourselves preserves our motivation to keep trying in the face of whatever life throws at us.