開発と経済のはざま

国際開発・経済・日々の雑記など

ブックレビュー 2020年6月30日にまたここで会おう

47歳にして世をさったエンジェル投資家・滝本哲史が東大で行った講義をまとめた講義録。氏の著作は実は一つも読んでいなかったのでライトに読めそうなこちらをセレクト。

無限の将来をもつ学生に対する愛と期待に満ちた書だった。

滝本氏は圧倒的に頭が良く回転が速く、法学者→戦略コンサルタント→エンジェル投資家というキャリアはそれだけみるとよくありそうなものだが、この本を読むと、世の中を少しでも良いものに変えたいという氏の想いが伝わってきた。

高度に複雑化された現代社会において、さまざまな邪念を振り払いながら、自分が信じる道を進む(あるいは道を見つける)ための一冊。

 

いい波に乗るためには、波が来るのを見てから走り出しても遅いんですね。波が来てなくてもずっと海辺に立っていなきゃいけなくて、その間ずっと、他の人から見たら「頭がおかしい人」である必要があるということ

 

新たな環境、再出発

4月から新たな環境で仕事をすることになった。といってもオフィス出社はなく完全にリモート。

まだ2日しかたっていないし直属のボスともまだ話せていないという拙い状況だけど、精一杯がんばりたい。

国際機関ということで、まずはカルチャーに慣れるのに苦労しそうだ。ボスはインド人、先輩的同僚はアメリカ人、イタリア人、トルコ人と、これでもかというダイバーシティ。いままでの職場のような手続き業務(いわゆるロジ)がほぼない(はず)なので、個人の能力がキリキリ問われる。チームの中で自分にしかできないこと、少なくとも自分が比較優位をもてる領域を研ぎ澄ましていく必要がある。

それから、アウトプット。考えていることをとにかく形にして、発信していくことを心がけたい。2年間の間に、ペーパーを2枚(自分のイニシアチブで)、そしてチームのレポートにsignificantな貢献をしたい。

どのような働き方になるのかまだ全くわからないので、ここに徐々に蓄積を残していこうと思う。

 

2021 謹賀新年 抱負

世間の騒乱とは裏腹に、2020年は働き始めてから最も穏やかな一年だったかもしれない。緊急事態宣言以降の在宅勤務で家族と接する時間は増え、今後のキャリアについてあれこれ考える時間も多かった。2019年駆け足で進めたオンライン学習は失速してしまい読書時間も思うようには取れなかったけれど、国際機関のポジションにいくつか応募して人と話したり面接の準備をしたりすることで勉強にもなった。結果、4月からのあらたな挑戦機会をつかむこともできた。

2021年は(今のところ)再び渡米して、全くあらたな環境で「経済」と「開発」に直結する仕事をする。コロナ禍で不確定なことも多く、いつ向こうのオフィスがオープンするかも分からないし、家族を連れて来れるかも分からない。けれど、2020年が混乱の一年だったとすると2021年は混乱の中で何らかの方向性が決まる一年になることは間違いないし、その中心はやはり米国なのだろうと思う。その環境で、出来るだけアンテナを張り巡らせて思索を続け、同時に(アメリカ社会で最も求められる)アウトプットを最大限行う年にしたい。幾つかの抱負を書き留めておきたい。

【仕事】

・新しいチームに認められる(チームにおける自分が役立つ領域を見つけ確立する)

・毎週新しい人とマンツーで話す

・毎月公開できるinstitutional outputを出す(ブログ、ペーパー、プレゼン等)

・論文執筆を開始する

【学習】

・20冊読む(斜め読みは数えない。洋書を10冊以上)

・70論文読む

・Courceraのネットワーク分析、Deep learningのコースを終え、オンラインで+2コース学習する

・毎日2時間は仕事以外の学習時間を作る。Economist1記事を読む。

【プライベート】

・週3回・計3時間以上運動する

・土日どちらかは家族デーを死守する

ブックレビュー Good Economics for Hard Times

2019年ノーベル経済学賞を受賞した3人のうち2人、Abhijit BanerjeeとEsther Duflo(2人は夫婦)による本書。原文で読んだからか3ヶ月近くかかってしまったが、飽きずに最後まで読むことが出来た。全てのchapterにおいて経済学の用語や数式を出来る限り用いず、読者の視点に寄り添いつつ「常識」をデータでもって覆し議論を進める手法は見事の一言。

本書で扱われるトピックは、移民、貿易、格差、経済成長、気候変動、税とベーシックインカム等、今日重要視されるトピックを俯瞰している。本書を読むとそれぞれについてなぜ問題となっているのかがよく分かる。移民は職を奪うのか、ロボットは職を奪うのか、貿易は格差を拡大するのか、税を下げると経済成長は進むのか、高所得者への累進課税を進めると働くインセンティブを奪うのか、気候変動の深刻化はイノベーションを生むのか。いずれも、社会は経済合理性を前提には動いていないことが問題認識の背景にあると言えるかもしれない。だからといって経済学は役に立たないということではなく、むしろ、経済学のアプローチで理論と実証結果を示しつつ、その差への考察から示唆を得ていくのが有効なのだ。

After all , most of us want to protect an image of ourselves as intelligent , hard - working , morally upright individuals , both because it is simply not pleasant to admit we might in fact be dumb , lazy , and unscrupulous , but also because maintaining a good opinion of ourselves preserves our motivation to keep trying in the face of whatever life throws at us. 

 

 

ブックレビュー 資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界

ノーベル経済学賞に最も近かった日本人経済学者の伝記として、アダム・スミスから始まる経済学思想の移り変わりと翻弄される時々の政治(逆も然り)の教科書として、アメリカ型資本主義と闘い真の豊かな社会の実現を考え尽くした一人の男のロマンとして、何度も読み返し指針としたい一書。

なによりも、経済学を学んだ者からしたらスーパーヒーローであるケネスアロー、ポールサミュエルソン、ロバートソローと対等に議論し、ミルトンフリードマン、ロバートルーカスと激論を交わした日本人がかつていたという事実に、突き動かされるものがある。ジョセフスティグリッツジョージアカロフは宇沢の弟子にあたる。

輝かしいアメリカ滞在時代の功績に比して、宇沢が日本に戻ってからの国際的評価は必ずしも高くない。しかし、主流派経済学が「外部性」として取り組まなかった公害や環境問題に直面し、社会的共通資本の考えを一人で発展させたことは決して無意味でなく、リーマンショック後、SDGやESGが叫ばれる現在に氏が存命であればきっと脚光をあびていたのではないだろうか。

この書を読んだことで、ジョーンロビンソン含む様々な経済学者の思想に出会い、経済学史を改めて学ぶこともできた。これほどの書を作るためにどれほどの時間と努力を要したか、想像もつかない。佐々木氏に感謝したい。

 やっぱり早く論文書かないと。

資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界

資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界

  • 作者:佐々木 実
  • 発売日: 2019/03/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

ブックレビュー シン・ニホン

イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」でも有名な著者による話題の一冊。日本の現状を客観的にとらえ警鐘を鳴らしつつ、AIがもっと普及し一般化していく今後の世界への「伸びしろ」は大きい(日本は産業革命でもcatch-upして成功した)として人材育成、政策と企業のあり方等、様々な提言がまとめられている。相変わらずPhDホルダー・経営コンサル出身ならではの極めて論理的かつ明快な文章とデータでずばずばと本質を突いてくる。

個人的には、AIにかかる提言よりも日本社会全体の生産性を高めるための方策の方が響くところが大きかった。「選択と集中」ではなく高リスクエリアも含め幅広くポートフォリオを張ること、決まりを理解して正しくこなすことでなく(これはマシンがやること)価値観を磨き自分で判断していくこと、未来=課題×技術×デザイン。本書が述べる教育改革、社会保障改革はこのための有効なロードマップだ。高度経済成長時代の成功方式(終身雇用、年功序列等)はスケールアップには有効かもしれないが、グローバルに競争力をつけなくてはいけない今の時代には機能しない。この国の行く末を思うあらゆる世代に必読の一書。

 

読みたい本リスト

留学中はほとんど「本」を読まずテキストや論文を読んでいたので、帰国後はなるべく本を読むようにしている。英語が原書のものは英語で。2020年もたくさん本を読みたいので、今現在の読んでいる&読みたい本リストをここで。下線が現在読んでいる本。随時更新。

 

-英語の本

Homo deus

Poor economics

Mostly harmless econometrics + Mastering Metrics

Righteous mind

wayfinders

Rosie Project

When breath becomes air

Mindfulness

Identity

HKS leadershipの授業のreadingリスト

Advanced Macroeconomics (Romer)

Thinking fast and slow

 

-和書

Python1000本ノック

資本主義と戦った男 宇沢弘文

夜間飛行

経済学に何ができるか

行動経済学の使い方

産業組織とビジネスの経済学

経済史

罪と罰(2週目)

世界標準の経営理論

ディープラーニング

現代マクロ経済学

資本の世界史

ファイナンスの哲学

戦争と平和

開発政策のナラティブ

ブロックチェーン(小島)